2024年9月18日水曜日

第7回:「米国第一(America First)」に対する誤解

 トランプ前大統領が掲げる「米国第一(America First)」についてどれだけの人がその真意を理解しているでしょうか。米国第一主義は何よりも自国中心主義であり、国際協調主義に反しており、自国だけが繁栄すればよいという極めて利己的な主義であり、現代の潮流に全く逆行していると言われていますが、本当にそうなのでしょうか。トランプ前大統領はそのようなことを「米国第一」として掲げているのでしょうか。結論から言えば、このような評価はトランプ前大統領の真意を全く理解していないばかりか、的外れで浅薄な言説であると言わざるを得ません。そして、多くの日本人がこのようなマスコミの報道を鵜呑みにしていることは、悲劇であるばかりか、哀れな喜劇でもあります。

 トランプ前大統領がどのような意味で「米国第一」を掲げているのか、そのことを端的に表現した国連演説の内容をご紹介しましょう。これは2018年9月の国連総会において世界各国の代表者に向けてトランプ大統領が語られたものです。

 「我々は決して、選挙で選ばれていない、説明責任を負わないグローバルな官僚機構に米国の主権を移譲しない。米国は米国人が統治する。我々はグローバリズムのイデオロギー*)を拒否し、ペイトリオティズム(愛国主義)の原則を信奉していく。」

 ここに宣言されているのは、国家の政策を決定するのは、国民なのか、国際機関なのかという問いかけであり、国民主権を守るのか、国際機関に服従するのかという、国家の在り方についての根源的な問いかけなのです。つまり、トランプ大統領の国連演説は、主権は国民にあるのであり、国家が国民の選挙によって選ばれてもいない国際機関のエリート官僚たちに支配されてはならないという普遍的な民主主義の原則を強調したものにすぎないのです。まさにトランプ前大統領は民主主義を守ろうとしているのであって、トランプ前大統領を「民主主義の敵」とするレッテル張りは全くの虚偽であり、悪意に満ちた扇動でしかありません。

 日本の国家としての在り方、国民の生命と財産を守るための諸政策、そして、日本の将来に向けての方向性を決定するのは誰なのでしょうか。主権者たる国民なのでしょうか、それとも国際連合に代表されるような国際機関なのでしょうか。もし、あなたが、日本国民こそが主権者であり、国家の在り方を決定するのは、私たち日本人である、と思うのであれば、それが「日本第一主義」ということなのです。そして、このような考え方こそ、民主主義の基本原則ではないでしょうか。つまり、民主主義国家は押し並べて「自国第一」を原則としているのであり、そのような原則に反対する勢力は、すべて「民主主義の敵」ということになるのです。

 「米国第一(America First)」が国際協調を無視した自国第一主義であると批判するならば、どうして日本のマスメディアは「都民ファースト」というスローガンについては、それを無批判に喜んで受け入れ、もてはやしたのでしょうか。日本の首相が自国民を第一としないのなら、いったい日本の首相は誰のために政治を行っているのでしょうか。日本の首相にとって日本国民の生命と財産、及び国民全体の利益に優先させる何かがあってもよいのでしょうか。日本政府が自国民よりも世界の他の国々を優先し、例えば、近隣国である中国の利益を日本の国益よりも優先するというのなら、これが悲劇であり、また、哀れな喜劇でなくて何でしょうか。

 それぞれの国が国家のエゴを捨て、主権を放棄するというのは、一見、崇高な理想に見えるかもしれませんが、これこそが偽善であり、非民主的な偽りの理想論であることに、私たちはそろそろ気づかなければなりません。世界を愛し、世界の利益のためには自国の国益をも犠牲にするという思想が本当に崇高なものであり、私たちを幸福に導く指標となるのでしょうか。これは全くの思い違いであり、綺麗ごとの幻想でしかありません。

 自分の国を愛することができない者は、決して他国を愛することはできません。自分自身を愛することができない人は、他人を愛することもできないからです。自分の国を蔑ろにするものは、同じように他国をも蔑ろにします。つまり、自国第一主義という「愛国主義」(ペイトリオティズム)こそが世界平和への最良の道であり、すべての人が祖国を愛する心を持つことから永遠なる世界平和が始まるのです。

 1981年に来日されたマザー・テレサは、講演の中で次のように語られました。

 「自分の国で苦しんでいる人がいるのに、他の国の人間を助けようとする人は、他人によく思われたいだけの偽善者です。」

 トランプ前大統領は何よりも米国民の幸福を願い、今苦しんでいる自国民を助け、今危機にある愛する祖国を救うために、狂おしいばかりの愛国心をもって、その生涯をかけた戦いをしているのです。自国民を幸福にできない者が、どうして世界万民を幸福にすることができますか。米国を救うことができなければ、世界を救うこともできないのではないですか。これが「米国第一(America First)」の真実なのです。

 自国民は救うことができないのに、世界を救うことができる、と豪語する者がいるとすれば、そのような者こそ、ただ人の歓心を買いたいと思うだけの模範的な「偽善者」なのです。あたかも崇高であるかのように思える見せかけの偽善に私たちは決して騙されてはならないのです。

 「先生、律法の中で、どのいましめがいちばん大切なのですか」。イエスは言われた、「『心をつくし、精神をつくし、思いをつくして、主なるあなたの神を愛せよ』。これがいちばん大切な、第一のいましめである。第二もこれと同様である、『自分を愛するようにあなたの隣り人を愛せよ』。これらの二つのいましめに、律法全体と預言者とが、かかっている」。 (マタイによる福音書 22章 36-40節)

*)グローバリズムのイデオロギー:
 国家が主権の一部を国家よりも上位に立つ超国家機構(国際機関)に譲り渡し、その国際機関が政策決定や問題解決に当たるという考え方。米国憲法は、国民が米国の主権者であることを明確にしており、グローバリズムのイデオロギーを完全に否定している。